映画「怒り」を観る

日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲った作品など、大概はバカにしてかかるのだが、この映画は「当たり」であった。

正視するのがつらい作品である。

いわゆる「ラヴ・アクチュアリー」方式で複数の主人公の別々の話が、同時に進行してゆくので、見づらいと言えば見づらい。

キーワードは「怒」という文字であるが、未解決の殺人事件の指名手配犯によく似た3人の男の、数奇な運命を描いた映画である。

群像劇であるが、物語の核になっているのは、沖縄で起きた米兵による少女泉(広瀬すず)のレイプ事件。

観るのも忌まわしいレイプシーンが映画の中ほどにあり、広瀬すずの体当たりの演技が印象に残る。

親がした借金のせいで、追われる羽目に陥った青年田代(松山ケンイチ)。

3か月前行方不明になった娘(宮?あおい)を探していたら、歌舞伎町の風俗店でボロボロになるまで働かされていた。父(渡辺謙)は介抱するように連れ帰る。

男ばかりが集う同性愛者のパーティのあと、瀕死の母の見舞いに行く青年優馬妻夫木聡

本土から来た前述の少女(広瀬すず)は島の友だちの少年辰哉と、無人島にわたる。と、そこでひとりで暮らす青年田中(森山未來)を見つけた。

殺人犯山神。指名手配の写真は何と女装写真。

優馬は同性愛者ばかりが集う部屋でレイプ同然にそこにひとり坐っていた直人(綾野剛)を抱く。

この男、指名手配犯によく似ている。

松山ケンイチ森山未來綾野剛。この3人の経歴がわからず、人相が手配犯(整形手術をしたことが明らかになった)によく似た3人の男。真相はラスト近くまでわからないが、これに泉をレイプされたことへの復讐に燃える辰哉の怒りが交錯してゆく。

映画のテーマ。人間は人間をどこまで信ずることができるか。

また、信じてしまったことで、不幸に遭う男女。

想い人、泉が目の前でレイプされているのに、何をすることもできなかった辰哉。

そのリベンジへの想いは彼を大それた行動へ駆り立てる。

監督は李相日。在日朝鮮人三世だそうである。僕は「フラガール」と「悪人」を観たが、さほど優れた映画とも思わなかった。が、この「怒り」は出色の出来だと思う。

ラスト近くにちょっとだけ高畑充希が出てくる。直人と同じ施設のこどもだった女性なのだが、ちょっとしか出ていないのに、妙に印象的である。

一つにはまばたき。俳優は普通まばたきをほとんどしない。が、ここでの高畑は盛んにまばたきをする。そうすることで彼女の感情が揺れているのが伝わってくる。映画のストーリィを把握していれば、そういう流れは観客にはわかるが、演ずる方はいきなり出てそれを演るのだから、難易度は半端ではない。この場面妻夫木のほうが演技が派手なのだが、印象に残るのは高畑充希の方である。わずかな出演だが、そう思った。